ここ数年でよく耳にするようになった言葉、クラウドファンディング。〝クラウドファンディング(英語:Crowdfunding)とは、不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを指す、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語である。(Wikipediaより引用)〟
アメリカの建国100周年を記念して建築された「自由の女神像」は、ジョーゼフ・ピューリツァーが自らの新聞「The New York World」を使ったキャンペーンで世界中から何千もの少額(一人当たり平均80セントほど)の寄付を募ったことで実現された。日本においても「結(ゆい)」という昔ながら共同体制度がある。一人で行うには膨大な費用や期間がかかるプロジェクトに対し、村落単位で相互扶助の精神で成し遂げるというものだ。このように昔からクラウドファンディングの元となる考え方や仕組みは存在していたが、近年のIT技術の発達やインターネットの急速な普及によって、現在では多くのプラットフォームが存在している。世界規模でのクラウドファンディング市場調査を行う、Massolution社の調査によると、2014年の総調達額は約2兆円、そして2015年は更に増え、約4兆円だと言われている。様々な資金調達の方法があるが、クラウドファンディングは起業家にとって今一番身近と言えるかもしれない。
クラウドファンディングが持つ可能性は、アニメ業界でも大きな注目を集めている。近年のアニメ業界ではBlu-ray/DVDの売上が伸びず、続編制作の為の資金が中々集まらない。そこで代替案として挙げられるのがクラウドファンディングだ。Windows用ゲームソフトとして制作された『Dies irae(ディエス・イレ )』のアニメ化プロジェクトは、4日で目標金額を達成し正式にアニメ化が決定した。他にも、片渕須直監督による『この世界の片隅に』のアニメ映画化を支援するプロジェクトでは国内のクラウドファンディングサイトMakuakeにて支援金を募集し、目標金額の2,000万円を超え、3,600万円もの支援金を集める事に成功した。こう言った数あるプロジェクトの中で今回は「リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード」という作品のプロジェクトに着目したいと思う。本作品は『キルラキル』や『ニンジャスレイヤー』などで知られているアニメ制作会社TRIGGERが手がけ劇場公開された「リトルウィッチアカデミア」の続編だ。2013年7月8日に続編の制作資金を集めるため、クラウドファンディングサイト大手として知られるKickstarterで支援者を募ったところ、開始から5時間で目標金額である15万ドルを超えたことで大きな話題を呼んだ。その後もファンは増え続け、募集終了の8月8には、約8000人のファンから、約62万ドル(当時のレートで約7000万円)を調達した。この成功により、当初約20分で計画していたアニメの長さが40分という倍の長さになったのだ。
この作品がここまでの輝かしい成功を収めた要因は一体何なのか。作品の内容自体が素晴らしいのはさることながら、決定的な成功要因は魅力的なリワードではないだろうか。リワードとは、プロジェクトを支援してくれたファンに対して、起案者側が行うお礼またはお返しのことだ。基本的に、クラウドファンディングでのリワードは金額によって変化するのが一般的だ。リトルウィッチアカデミア2のプロジェクトでは、1ドルから最大で10,000ドルまでのリワードが用意された。(下記参照)
〈1ドル〉(1135人)
・感謝の気持ち
・リトルウィッチアカデミア2の壁紙
〈20ドル〉(1674人)
・公式サイトへのスペシャルサンクスへのクレジット
・限定アートブックのデジタル・ダウンロード
・リトルウィッチアカデミア2本編のダウンロード
〈50ドル〉(2697人)
・リトルウィッチアカデミア2の本編BD
・限定アートブックの印刷版
〈100ドル 〉(1701人)
・上記のリワード
・本編の限定版BD
・限定アートブックの印刷版
・本編のフィルムリードカット
〈200ドル〉
・100ドル支援時のリワード
・Tシャツやポスターなどの豪華グッズ
〈300ドル〉(431人)
・200ドル支援時のリワードすべて
・サイン入り本編BD
・オリジナルフィルムリール
〈1,000ドル 〉(10人限定)
・300ドル支援時のリワード
・ジクレーアート
・本編で使われた台本
〈2,000ドル 〉(限定)
・1,000ドル支援時のリワードすべて
・キャストのサイン入り台本
・オリジナルイラスト入り色紙
〈10,000ドル〉(5人限定)
・2000ドル支援時のリワードすべて
・TRIGGER社のスタジオツアー&チームとのディナー(宿泊代込み)
・ウルトラスーパーピクチャーズとグッドスマイルカンパニーのオフィスツアー
1ドルだと壁紙と〝感謝の気持ち〟が用意された。1ドルからなら誰でも気軽に支援することができる。50ドルで、本編BDとアートブックが手に入る。50ドルという値段でBDとアートブックが入手できるファンにとってかなり魅力的なリワードということもあり、本プロジェクトの中で1番人気があった。100、1000、10000と金額が上がるごとに上記のリワードに追加される形でクレジット表記、サイン入り台本、オリジナル色紙等のリワードを手に入れることができる。最高額の10000ドルではすべてのリワードにプラスでTRIGGER社のスタジオツアー&チームとのディナーをすることができる。5人限定で販売したが即完売した。ファンにとっては夢のような特典だ。
上記のように、このプロジェクトは魅力的なリワードを用意し、そしてファンの心を掴んだのだ。リワードは、プロジェクトの支援に火をつけて加速させる為にとても重要な要素であり、ファンに対しての誠意、発案者の作品に対する想いの形と言えるのではないだろうか。
クラウドファンディングは受け取る人に出資をしてもらわなければ成り立たない。受け取り手が欲しいと思ってくれなければプロジェクト自体がスタートできない、進行しないのだ。そういった点ではクラウドファンディングは一見手軽で始めやすい様に見えて実は難しい仕組みなのかもしれない。プロジェクトを成功させるためには出資をする側の視点に立ち、「何を求められているのか 」を考えることが必要だ。受け取る側の「欲しい」を形にして提案し、共感してもらえるものを作ることがクラウドファンディングで成功を手にする鍵になるのではないだろうか。