チームラボではデジタルアートミュージアムを世界各地で展示している。その世界に足を踏み入れると、360度デジタルで構成された不思議な世界が広がっている。オブジェクトとパネルを合わせて構成された空間があり、そこに映像が投影されることで、不思議な世界観を生み出すのだ。一つの作品の中で気に止まっていた鳥が羽ばたいて別の作品の中に羽ばたき、その作品に影響を与えていく。「作品」はその部屋から飛び出て、自ら動きだし、ほかの作品と関係し、影響を受けあう。ほかの作品との境界がなく、時には混ざり合う。人の動きに合わせて映像も動き、触れると反応して連鎖して反応しあい、また違う表情を見せる。いわゆる体験型ミュージアムである。
その中に、ほかの会場とつながっているものがある。その作品では、人がそこに立って動いたり触れたりすると、そこで与えた影響が別の会場でも投影される。離れた地にいながら、画面の向こう側に人がいることを感じられ、互いに作品の一部として干渉しあうのだ。
この作品を知って私が考えたのは、「本人がそこにいない没入型ライブ空間」である。
360度映像で囲まれるライブハウス程度の規模の空間を用意し、そこに観客をあつめてライブを行うのだ。音楽の世界観に合わせて360度、映像が様々に変化し、観客の反応に合わせて映像が変化する。ステージ上ではアイドル本人を映し出すことも可能にする。椅子は用意せず立ち見のみで、ライブハウスのような形でお客さんを入れる。
立体音響も導入することで、より没入感は増すだろう。視覚・聴覚をフルに支配し、かつてない音楽体験を提供することを目指す。
ひとつ映像を用意することで、そのライブを何度でも再現することが利点である。しかし、まったく同じではなく、観客の反応により映像を変化させることによりその日その場所でしか体験できない空間が出来上がる。各地での同時開催もできるであろう。現実に存在するミュージシャンやアイドル用に映像を作ることも可能であり、二次元のアイドルのライブを開催することも可能である。
将来的に面白いなと考えているのは、「永遠のアイドル」の創造である。すでに初音ミクはそのような存在になっているが、より高度な合成音声と、AI学習による会話の上達により、人が操作せずに、AI自身が観客の反応を見て応答し、感情を持つ人間のようにふるまう。「個性を持つ人間」を創造し、それを永遠のものにするのである。
私は現在、とある二次元のアイドルが好きで応援しているが、その存在は声優という演者の死により消えてしまうものだと考えている。それは私にとって耐えがたいことであり、同じように思う人は多くいると思う。「永遠のアイドル」を願うのは人間の傲慢であろうと思うが、それができそうなほど技術が進歩している昨今、実現に向けて動き出すのも面白いように思う。