G21062_メタバースの目的について

“目的が我々を生み出し、我々を繋ぎ、我々を突き動かし、駆り立て、定義し、結びつける”

…これは究極の仮想現実『マトリックス』に登場するキャラクター、エージェント・スミスの言葉だが、現実世界における仮想現実と言えば、この頃流行りのメタバースだ。

メタバースとは何か?メタバースを仮想現実として見た場合、多くのゲームはメタバースの一つであると言える。今ではすっかりメジャーになった3Dのサンドボックスゲーム、『マインクラフト』や、ゲーミングプラットフォームの一種である『ロブロックス』など、3D空間での体験を提供するゲームは、メタバースの先駆け、あるいは既にそのプラットフォームとして認識されている。

友人の家のXbox360で古のマインクラフトをプレイしていた当時の自分は、あのブロック世界がこれほどの未来を映していたとは思わなかったが、今になって思えば、当時からその兆候は見られたような気がする。PC版のマインクラフトではゲーム内で製作されたミニゲームを多数用意したサーバーを介してのコミュニケーション、そしてコミュニティは既に存在していた。Mineplex、Hypixelなど、どれも懐かしい名前だが、その内部で見知らぬ人同士が多数集まっていたその様子もまた、いわゆるメタバースだったのだろう。

ただし、何もそういったサーバーだけでなく、当時からインターネットを利用したゲームのマルチプレイは既に多数存在していた。これは何もマインクラフトに限らない。PlayStation2の時代から既に、人がデータとネットの中で自身の分身を作り、それを通して他者と繋がるというシステムは存在していた。それはまさしくメタバースだ。

しかし、残念ながらゲームとメタバースには決定的な相違がある。それは「目的」の違いだ。

我々がゲームをする時、我々は「遊び」をする為にゲーム機を起動し、PCを立ち上げる。多くの場合、明確な目的意識は遊びにあり、その結果「コミュニケーション」が発生する。それは飽くまで付随物なのだ。SNSに関しても同様で、「発信」の為に、「通話」の為に、「会話」の為にアプリを立ち上げる。その目的意識ははっきりとしている。一方で、メタバースはどうだろうか。何ができるのか、何をさせたいのか、何が目的なのか。それは仮想現実でのコミュニケーションなのか、ゲームなのか、取引なのか、仕事なのか。はっきりしない。捉えどころがないのだ。

「メタバースとは何か?」この問いに、私は答える事ができない。それは「メタバース」という言葉があまりにも曖昧だからだ。テニスをプレイしたい、あるいはテニスの試合を観覧したい人が、テニスの事を「スポーツ」とは呼ばないだろう。それと同じく、次世代のコミュニケーションツール、プラットフォームを表現するには、メタバースという言葉は漠然としすぎている。むしろ、メタバースという言葉で一括りに定義し、誇張し、喧伝するのは、それらの進歩と発展、そして何より普及を遅らせる枷となるだろう。漠然とした「未来的な夢のバーチャル空間」というイメージが先行し、メタバースの開発を謳う企業も、漠然とそれを作ろうとする。そのイメージは、おおよそその本質を捉えているとは考えにくい。コミュニケーションもショッピングも、何も「3Dアニメーションのキャラクターがポリゴン世界を歩いていく事」は手段でしかなく、本質ではなかった筈だ。メタバースの本質とは明確な「目的意識」であり、その世界で「ユーザーが何をしたいか」に依る。そしてその先に人との繋がりがあり、それらが積み重なることで、新たなコミュニティ、つまり「現実」が形成される。だからこそ人を呼び込み、興味を惹くものが必要となる。今や指先一つで買い物が出来る時代だ。究極的に楽ができる社会の中で何故「わざわざ」自分の分身を歩かせて買い物をする体験が必要なのかという理由を解き明かし、突き詰め、発信しなければならない。ユーザーが実際に「使ってみたい」と思えるものを作らなければならない。

その点で言えば、ユーザーは何も「現実世界のすべてができるバーチャル空間」など求めていないのかもしれない。Twitterの機能が拡張する度、「そんな機能は求めてない」という旨のツイートが投稿されるのがお決まりになっているが、それと同様に、あれもこれもと詰め込もうとした結果、目的を見失い、中途半端になっては本末転倒。ゲームが根底にあるメタバースが注目されるのは、そこに「遊び」という目的があるからではないのだろうか?どれだけ最新鋭のシステムも「目的」が無ければ使われない。そしてコロナ禍の中で人々は新たな現実の形に活路を求めた。そこに目的を見出したからだ。メタバースには復権の余地がある。あるいはこれからが本番だと言える。娯楽、仕事、商業…人類がインターネットの中に新たな自分を置くその「目的」を忘れてはいけない。

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