アール・ブリュット展が海外で大人気になり、日本でもあちらこちらで開かれ好評を博している。
アール・ブリュットとは、簡潔に述べると、美術の専門知識を持っていない様々な人達が創作したもののことだ。フランスの芸術家、ジャン・デュビュッセが考案したのが始まりで、日本語に直訳すると「生の芸術」という意味を持ち、伝統や流行に左右されず、自身の内側から湧き上がる衝動のまま表現した芸術、と解釈されている。
非常にボーダレスな作品展となっていて、特に障がい者達による作品展が多く、福祉や社会について考えるきっかけとなっているようだ。
実際に、フランスのパリにあるアル・サン・ピエール美術館では、滋賀県社会福祉事業団体によって開催された「アール・ブリュット・ジャポネ」展で、20都道府県から集められた、主に障がいがある人たちが創った絵画や陶芸などが約800点展示された。
特に滋賀県では、アール・ブリュットの拠点となり、国際的に意義ある役割を担った県民の誇る文化となるよう活動を始めている。
今回は、このアール・ブリュットから、人と人のつながりをつくるための提案をしていきたいと思う。
絵にしろ人形にしろ、創作物というのはその人の個性や内面が一番に表れるものだ。知識や理論など関係なく直感で作ることもできるからこそ、その人の思いがあらわれやすい。だからこそ、価値観のまったく違う人たちが生み出す作品たちが人気となっているのではないだろうか。
作品展というのは、見て楽しむ、というだけでなく、作者への理解を深めることができる場でもある。そして、作品について他の人と語り合ったり、作者に話を聞いてみたり感想を伝えたりと、交流の場ともなる。
そこで私は、様々な分野の人同士でつながりを持てるような場となるアール・ブリュット展を提案したい。
美術館のような緊張感のあるものではなく、交流を意識した作品展である。
作品だけを集めるのではなく、その作者達も集まり、自分たちの分野の話や趣味の話をする場をもうけたり、色紙などを用意して、その作品を作った人へ向けてメッセージを書くことができたり。わいわいと賑やかな雰囲気の中で作品を楽しめるような場所にする。他にも、集まった人と一緒に簡単な作品を作って互いに交換する、などのイベントがあれば、人と話すことが苦手な人であっても交流しやすく楽しめるだろう。
そうすることで、普段関わることのない分野のひとと気軽に話して互いに刺激を受けたり、外に出ることができない人でも、いろんな人から寄せられたメッセージを読むことができ、元気づけることができる。直接会って話がしたいという人があれば、そこからつながりも広がっていく。
こう考えていくと、アール・ブリュット展というのは新たな幅広い社交の場ともなれるのではないかと思う。美術に興味のない人でも参加しやすいものとなれば、芸術にふれる人が広まるきっかけにもなるだろう。クリエイターとしてはこういった芸術によって人とのつながりが広がることは嬉しく思う。