G15-043 ユビキタス社会におけるモノとヒト

1988年にゼロックス・パロアルト研究所のマーク・ワイザー氏によって”ユビキタスコンピューティング”という考えが提唱されてから、30年近くの月日が経った。
現代社会は高度な発展技術により、ユビキタスネットワーク社会といわれている。
そもそもユビキタスとは「神はあまねくしろしめす」という意味のラテン語を語源とする英語で、「いつでも、どこでも存在する」という意味だ。
30年も前には考えもしなかった、あるいは”未来予想”していた事が現実となったのが、現代の社会なのだろう。
しかし、何が遍在する社会になったのだろうか。

はじめに提示した”ユビキタスコンピューティング”とは、いつでもどこでも情報ネットワークにつなげられる環境があり、利用者が簡単にそれらを使用できる技術の事をいう。
この考えでは、コンピューターの利用形態を三世代に分けている。そして、
1.メーンフレーム(1台の大型コンピューターを多人数で使用)
2.パソコン(1台のコンピューターを1人で使用)
3.ユビキタスコンピューティング(1人を多数のコンピューターが取り巻く)
と、説明した。
つまり、現代社会はすでに第三の利用形態に入っていることになる。いや、もう第三の利用形態の枠では収まっていないように思う。

技術発展により、ネットワーク、コンピューターが普及し、今では人工知能でさえ開発されている。
現物を持たなくても、自ら体を動かさなくても、小さな情報機器1つさえあれば、日常生活で困ることはない。
インターネットは人を超えてしまい、モノにまで普及し始めている。

Inter of Thing という言葉を、ご存じだろうか。
日本語で”モノのインターネット”という意味である。
”モノのインターネット”とは、産業機械から消費財まで私たちの日常を構成している「モノ」が相互接続するネットワークであり、現在急速に拡大している。
ユビキタスとの違いは、必ずしも人を介さず端末同士で自立連携することが想定されていることだ。
IoTにつながれたモノたちは、私たちが他の活動をしていても情報を共有したりすることができ、将来的には自動車や住宅、電化製品など、あらゆるモノが接続され、ネットワークが形成されていくだろう。
これによって、全てが適切に制御される世界への展望が期待できる。

デバイスやセンサーがネットワークでつながり、互いに通信しあうことで、私たちの生活に与える利点は数多くある。
例えば、GPSシステムや警報システムなどが挙げられる。
子供の居場所がすぐにわかるシステムは共働きの親にとって安心できるありがたいシステムになり、地震などの速報が入るシステムは子供から高齢者、すべての年代の方にとって必要なシステムといえるだろう。
こうした面を見ると、IoTにはメリットしかないように思える。

しかし、勿論デメリットもある。
ネットワークにつなげている以上避けようのない問題は多々あるが、その中でも私が着目したのは、それらのデバイスが古くなった時のことである。
デバイスはいずれ劣化してしまう。その時、きちんと機能停止するようにプログラムされるべきだと私は考える。
あるベンチャー企業の代表は、インターネットに接続されたデバイスはアップデートされなければハッカーに対する脆弱性を持つことになると危惧しているという。私も同じ様な意見を持った。
そうでなければ、永遠に生き続けるIoTはいずれ何者かに乗っ取られてしまうのではないか。これまで目立つことのなかったモノが、ハッカーにとって格好の餌食となってしまうのではないだろうか。
高度な技術発展を支える人たちと同じ頭脳を持った人は、この世にたくさんいるということを忘れてはならないと思う。

メンテナンスのされないネットワークは、問題を引き起こす火種となる。
今現在、どんなに賢い人が構築したシステムであろうと、少し信憑性が薄い。というのが私の本音だ。
モノとモノがつながっても、私の気持ちはつながっていない。それこそが、IoTの今後の課題ではないだろうか。

ユビキタス社会は大変便利な社会であることには変わりない。
将来、仕事帰りに冷蔵庫が切れかけている食材をお知らせしてくれるかもしれない。
冷蔵庫が中にある食材でのレシピを提案してくれるかもしれない。
しかし、いろいろな人が考えているように、便利さに囚われすぎてはならない。自分自身の気持ち、考えも大切にしていかなければならない。
モノがなければ私たちは生活できないが、自身の気持ちも同時に必要である。
モノとモノだけでなく、その先にいるヒトの想いをつなげる事が出来れば、世の中はさらに良い方向へと進むのではないだろうか。
ネットワークとヒトの気持ち。その両方が、更なる展望へと導いてくれると、私は考える。

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