G15-043 クラウドファンディングについて

私たちは普段、お金を払う代わりに何か物資を購入したり、働いた時間に見合った賃金を得たり、という持ちつ持たれつな関係で成り立っている世の中で暮らしている。

このように、「支援する代わりに何かを得られる」という、ギブアンドテイクのような仕組みは、古くから存在している。

鎌倉幕府が出来る直前の1180年、焼き討ちで焼失した東大寺と大仏の修復・再建のため、再興事業を指揮した重源は、全国各地を回り信者や有志からの少額の寄付を集め、再興事業を成功させた。

17世紀初頭に活躍した書籍編集者のジョン・テイラーは、書籍の印刷代を寄付によって集め、その見返りとして寄付者の名前を書籍に掲載した。

世界的にもよく知られている”自由の女神”は、アメリカ合衆国の独立100年を記念してフランスより贈呈されたものだが、自由の女神を載せる台座は一般市民からの寄付により建設された。

これらの仕組みに共通している事は、何かアイデアやプロジェクトを持った起案者が寄付を募り、それに対して企業等ではなく多数の市民が寄付をするという事である。
この仕組みに現代のIT的要素を含ませ、さらに実現可能な道へと導いたのが、”クラウドファンディング”である。

クラウドファンディングとは、Crowd(群衆)+Funding(資金調達)という2つの言葉を掛け合わせた、実現させたいアイデアやプロジェクトに対して小口の資金を元に多数の人たちから必要資金を集め、マッチングを図るプラットフォームサービスの事である。

“クラウドファンディング”という言葉自体は新しいものだが、この仕組みは冒頭でも示しているように、実は金融の原始的なモデルであり、特段新しいものではない。高度化・専門化された金融の仕組みを先祖返りさせたシステムと言えるだろう。

例えて言うと、「こんなお店を開きたい」「こんなサイトを立ち上げたい」「こんなプロジェクトを実現させたい」等、その思いに資金が必要な場合、クラウドファンディングの存在意義が発生する。
内容が魅力的なものであればたくさんの支援が集まるが、その成功率は大体35%前後と、少しリスクがあるようだ。

一昔前の資金調達は「銀行からの借り入れ」や「投資会社からの投資」という方法が一般的であったが、今は多くの人から少額ずつ集められる時代になった。そして、殆どのクラウドファンディングでは、プロジェクトが成功した場合に手数料を受け取り、失敗した場合は何も受け取らないという、ALL or NOTHINGの方式を取っている。

そして、資金や支援者へのリターンのあり方によって、4つのタイプに分類されている。

1つ目は、集めた資金を全額寄付に充て、リターンのない「寄付型」
2つ目は、出資者がプロジェクトの利益から配当という形でリターンを受け取る「投資型」
3つ目は、出資者が利子という形で一定のリターンを受け取る「融資型」
4つ目は、支援者はお返しとしてモノやサービス、権利という形でのリターンを受け取る「購入型」
(朝日新聞のクラウドファンディング”A-port”から抜粋)

日本最大のクラウドファンディングサイト”camp fire”を含む、多くのクラウドファンディングサイトは4つ目の購入型を採用しており、今現在では分野に特化したクラウドファンディングサイトが相次いで登場している。

その中でも今回は、世界最大のシェアを誇るクラウドファンディングサイト、”kicksterter”に掲げられた「KUNG FURY」というプロジェクトを取り上げたいと思う。

この「KUNG FURY」は、スウェーデンのデヴィッド・サンドバーグ監督がクラウドファンディングを通じて資金調達をし、実現成功させたアクション映画である。

普段はCMやMV等を担当していたのだが、彼自身が懐かしい80年代のアクション映画の大ファンで、その思いを捨てきれず一念発起しようと、プロジェクトとして寄付を募った。

最終的な調達金額は$630,019、日本円にして約7800万円という大金である。開始当時の目標金額の3倍以上の金額を調達することに成功しており、とても有名な成功事例だ。

彼はkicksterterにプロジェクトを掲げる際、文章だけでなく約6分間の動画を作成した。
その動画の内容は、「映画の予告編」「監督による映画解説」「視聴者への支援願い」という構成で作られている。

この予告編がネット上で話題を巻き起こし、資金調達に成功した。

彼は、自身の受け持っている仕事を全て辞める覚悟でこのプロジェクトをkicksterterに登録し、約60万円を掛けて予告編を製作したという。

映画の内容は、1985年のマイアミを舞台とし、カンフーの要素をメインに、変型ロボや任天堂のパワーグローブ、さらにタイムトラベルによってナチスや北欧神話、恐竜まで、男子が好きなものを全て登場させるという自由な発想の80年代テイスト溢れるB級作品である。

主人公は雷に打たれ、カンフーパワーとその使命に目覚めた刑事で、史上最悪のカンフーマスター”アドルフ・ヒトラー”を倒すべく、タイムスリップをして戦いに挑む、というストーリーで、少々荒い表現も見受けられるが、PVの勢いの侭物語が進行していく。

この映画は沢山の人気や話題を集め、公式ゲームまで登場している。
これを機に、監督は第二弾を製作したいとまたもや資金調達をしている最中だという。

“世界で成功したクラウドファンディング”の例として抜粋される程、この「KUNG FURY」というプロジェクトは大規模な計画、そして素晴らしい成功であった。

どのクラウドファンディングにも言える事だが、「このプロジェクトを成功させたい」という断固たる思いがないと、成功には繋がらない。現に、動画を製作し支援を募ったプロジェクトの成功率は約50%と、少し可能性も高くなっている。

そして何より、詳細な実行計画が無ければならない。

世界の例では、目標額に達しても資金面や技術面において起案者の当初の見通しが甘かった等の理由でプロジェクトが完遂されず、支援者にリターンが用意できなかったケースがある。クラウドファンディングは新しい資金調達の概念の為、こういったリスクから支援者を守る制度はまだ整備されておらず、全責任が起案者に生じてしまう。

「KUNG FURY」の場合、自費で予告編を製作するという意欲、情熱、その予告編が本編を更に期待できるクオリティであった事から、クラウドファンディングとしての理想的な成功事例ではないだろうか。

世界のクラウドファンディングの市場規模は、現在5000億円程度と言われているが、まだまだ成長の入り口に立ったばかりの段階である。復興支援で大きなお金が動いた実績、感動や共感を元に行動する土壌は、クラウドファンディングという「新しいお金の流れる仕組み」にとって非常に大きな意味を持っているだろう。

日本は、何かに感動したり何かを支援したいと思った時に、力を発揮する国ではないだろうか。また、日本の個人は850兆円を超える世界最大規模の現預金を保有している。そうした意味で、日本のクラウドファンディングのポテンシャルは非常に高いのではないか、と私は考える。

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kungfury

日本最大のクラウドファンディングサイト … http://camp-fire.jp/

世界で最もシェアのあるクラウドファンディングサイト … https://www.kickstarter.com/

「KUNG FURY」kick ster … https://www.kickstarter.com/projects/kungfury/kung-fury?ref=video

「KUNG FURY」予告編 … https://youtu.be/72RqpItxd8M

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